飲食店の謎ルールの話

僕は今、とある飲食店でアルバイトをしています。基本的にみんないい人で楽しいバイト先ですが、一つだけ違和感がある決まりがあります。それは「座敷での接客は原則として着物を着た女性だけが行う」ということ。

 

もちろん、草履を履いている着物の女性の方が座敷への出入りがスムーズにできる、という理由はあります。また、個室は利用料を別途頂戴しているという点からも接客に慣れた店員が担当した方が良いという考えもあるのでしょう。ただ、どうしてそれを女性だけが行うのか、どうしてそれが当たり前のこととして定着しているのか、ということには些か疑問を感じずにはいられません。

 

こうしたルールは、(あくまで憶測ですが)「給仕行為は女性がするもの」という性規範の意識が座敷という伝統的な日本的空間において特に強くはたらき、自然と形成されたものではないかと思っています。自分の経験を顧みても、和室での接客は着物の女将さんが担当していたことが多いですし、それが「普通」として多くの人に根付くのも仕方のないことかと思います。

 

ただ、実際に働いてみると、このルールはデメリットの方が多い印象を受けます。とにかく、たまに作業効率が著しく悪くなる。座敷の呼び鈴が一気になったとき、男性アルバイトは手が空いていたとしても注文を伺うことはできないですし、できるサポートといえば座敷の前まで料理を運んだり、飲み物を作ったりする程度。また、呼び鈴が鳴ったのを男性が気づいても、わざわざ女性に声を掛けて行ってもらいます。

 

これらのデメリットよりも、「座敷での接客は女性がすべき」という伝統的な価値観は重視されるべきものなのか。「子供が騒いでも大丈夫なように」という理由で個室を使う家族連れのお客様に対する効率的な接客よりも、「可愛い女性の接客の方が嬉しい」というお客様の考えは無批判に優先されるべきなのか。

 

「個室料を別途頂戴するのだから質の高いサービスを追求するべきだ」という考えもありますが、その質の高いサービスの解を女性の接客とするのはあまりにも論理が飛躍していると思います。もちろん性別による接客の傾向の差は少なからずあるでしょうが、女性に劣らない柔らかな接客をできる男性だってたくさんいるので。

 

そもそも、「普段はやらないけど、やろうと思えば誰もができる状態」と「ルールとして決められた人以外はできない状態」だったら絶対に前者の方が健全だし合理的だと思うんだけどなぁ。古くからの価値観によって初めから選択肢を絞ることって、すごくもったいないことではないかと思います。